解説　　　是　　界

　唐の天狗の首領是界坊(シテ)は、自国の唐に於いて、仏教の主要な寺院の僧達を天狗の魔境に惹き入れ、今度は日本の仏教界をも誘引しようと思い立ち、遙々日本にやってきました。最初に聞き知った愛宕山に太郎坊(ツレ)の庵室を訪ね、自分の野望は天狗の共通の野望であることや、天狗としての境遇等を語り合いました。そして、太郎坊の案内で比叡山の高僧を魔境に誘引しようと出かけます。
　比叡山の僧(ワキ)は、勅命を受けて京都へ向かう途中、急に天候が荒れ出し、不審に思っていますと、是界坊が正体を現して、魔境に惹き入れようと挑みます。僧は経文を唱え天狗の魔力に抵抗します。僧の読経の声に、仏教の守護神五大尊、十二天はもとより、日本の神々まで出現して神風を起こし、天狗の魔力に抵抗をします。是界坊は、神風に飛行の術も叶わなくなり、僧に向かって三拝し、再び日本の仏教征服には来ないと言い捨て、姿は雲中に消え失せました。